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★ 愛染かつら= 映 畵 (ストリ) ★
愛染かつらをもう一度 - 島津亞矢 wma ダウンロード
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62.愛染かつら |
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また邦画に戻る。きょうは「花もあらしも踏みこえて……」の「愛染かつら」(昭13・松竹・野村浩将監督)である。 この映画は、はじめはこんなに当たるとは思わず、軽く手がけたものだが、それが大ヒットして、びっくりしたのが松竹陣営であった。これに気をよくして、しぶりがちな脚本家や監督を説得し、オリジナルで強引に続編、完結編を作ったといわれる。私の見たのは制作後2年たった総集編だった。それでも場内は満員で、しばらくは立ち見を余儀なくさせられたのである。 この映画がヒットした原因は、原作および主演スターの人気もあっただろうが、主題歌「旅の夜風」を霧島昇と松原操(ミス・コロンビア)がデュエットで歌ったのもあずかって大きな力となった。今も、この原稿を書きながら、私も「旅の夜風」を口ずさんでいる。 看護婦高石かつ枝(田中絹代)は津村病院の美人看護婦で、小柄な体だがよく働き、仲間からも好かれていた。病院長の長男、津村浩三(上原謙)も、彼女に強くひかれていた。 かつ枝は、秘密にはしていたが、若い頃死に別れた夫との間にできた子どもを姉に預けて、自活の道を歩んでいた。 ある日、かつ枝は浩三に津村家の菩提寺へ誘われて、境内の大樹の側で「このかつらの樹は、思う人同士が共に愛を誓えば、どんなことがあっても、末は必ず結ばれて幸せが来るところから、愛染かつらと呼ばれている。私と一緒に誓いを立ててください」といわれ、かつ枝はその樹に手を添えて、誓ってしまったのである。 でも所詮は病院の後継者と看護婦。彼は意を決して、ふたりで新しい生活に踏み切るべく、京都の友人のもとに向かおうとしたが、彼女は娘の急病で、新橋駅の待ち合わせの時間に遅れてしまった。駅の階段を駆け上がる彼女の目の前を、浩三を乗せた列車は立ち去ってゆく。ここで「旅の夜風」の前奏が始まり、嫋々(じょうじょう)たる歌声が場内に流れて、哀しいすれ違いのうちに前編が終わる。 紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、ふたりは結ばれることになるが、それからのストーリーはあまりよく覚えてはいない。ただ、かつ枝がいよいよ来ないと決めて、浩三が誰も並んでいない出札口で京都行きの切符を買うところで、場内から嘆声がもれたのを覚えている。総集編上映の当時、長距離切符はなかなか手に入る状態ではなかった。戦争は次第に国民の日常生活をさえ奪おうとしていた。
(初出昭和63/11・9)
〈写真=「愛染かつら」の田中絹代と上原謙〉 |
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